■元刊本(亡) (元刊本)【元】
既に亡びてしまって見ることができないが、後述の嚴萬里(げんばんり)が底本として用いた版本で、嚴校本中の校記によってその体裁を窺うことができる。『商君書』は宋版や日本の古抄本などが全く残っていないため、もしこの元刊本が残っていれば、現存する『商君書』のテキストの中では最古のものになる。
■明嘉靖范欽校天一閣刊本 (天一閣本)【天】
明の嘉靖年間に当時の有名な大蔵書家・范欽(はんきん)がその蔵書閣である天一閣で校刊した本。嚴萬里が元刊本を校訂する際に用いた版のひとつ。現在、四部叢刊初編にも影印されていて、手軽に見ることが出来る。
■明萬暦秦四麟校刊本(未見) (秦四麟本)【秦】
明の嘉靖年間に大蔵書家・范欽(はんきん)がその蔵書閣である天一閣で校刊した本。嚴萬里が元刊本を校訂する際に用いた版のひとつ。現在、四部叢刊初編にも影印されていて、手軽に見ることが出来る。
■明萬暦程榮校漢魏叢書本 (程榮本)【程】
明の程榮が『漢魏叢書』の中に収録した本。やはり萬暦年間の刊。後述の孫星衍(そんせいえん)や朱師轍(しゅしてつ)が校訂の資料として用いている。
■清孫星衍校問經堂叢書本(未見) (問經堂本)【孫】
清の孫星衍(そんせいえん)が校刊した本。嚴萬里の校本とは異なる系統の諸本を用いているので参考に値する。
■清光緒嚴萬里校浙江書局二十二子本(嚴校本)【嚴】
清の嚴萬里の校本。清の光緒の初めに浙江書局から『二十二子』のひとつとして刊行された。既に亡びた元刊本を底本とし、それを明の天一閣本と秦四麟本で校訂しており、長らく『商君書』中、最善の版とされてきた。なお、去彊・徠民・賞刑の三篇に出てくる「葉校本」がいずれの版なのかは未詳。 (当サイトの『商君書』本文はこの浙江書局本の覆刻本である光緒二十三年新化三味書局校刊本を底本として用いているが、一般には『二十二子』の縮印本か、鈴木一郎氏の『商君書索引』(風間書房)に附載されている浙江書局本の写真版が利用できる。)
■清嚴可均校諸子集成本 (諸子集成本)【諸】
『諸子集成』中に収録されている『全上古三代秦漢三國六朝文』で有名な嚴可均の校本。或いは嚴萬里と同一人物なのではないかという説もあるが、両者の関係は不明。テキストとしては、二十二子本と諸子集成本とは若干の異同がある。
■清孫星衍校問經堂叢書本(未見) (問經堂本)【孫】
清の孫星衍(そんせいえん)が校刊した本。嚴萬里の校本とは異なる系統の諸本を用いているので参考に値する。
■朱師轍『商君書解詁定本』(解詁本)【朱】
『商君書』の草分け的な注釈書。訓詁に優れ、現在でも最もベーシックな注釈書として用いられる。嚴校本を基に、後述の兪?(ゆえつ)や孫詒讓(そんいじょう)の成果も参照しているので、底本として用いるなら、嚴校本か本書を利用するとよいだろう。因みに朱師轍は『説文解字通訓定聲』の朱駿聲の孫に当たる。
■陳啓天『商君書校釋』(校釋本)【陳】
陳啓天が『商鞅評傳』を書いた後に刊行した『商君書』の校注本。徠民篇の後半部分を既に亡びたはずの刑約篇にあてるなど異色の体裁を持っている。序文中で陳氏がこれまで類を見ない異本を用いたことについての記載が若干みえるものの、底本に何を用いたのか未詳なのが惜しまれるが、ともかく嚴校本の系統とは全く異なるようである。底本として用いるには問題の多い本だが、注釈としては朱師轍『解詁』をよく補っているので、両者を併用して用いたい。
■?禮鴻『商君書錐指』(錐指本)【錐】
中華書局の新編諸子集成に収録されている注釈書。底本には嚴萬里の校本を用いている。商君書最善の注釈書と言っても過言ではなく、嚴校本も朱師轍解詁も見ることができない場合は、入手の容易な本書を用いるとよい。なお、本書巻末の蒙季甫氏の「商君書説民・弱民篇爲解説去彊篇刊正記」は、『商君書』研究者必読の論文である。
■高亨『商君書注譯』 (注譯本)【高】
近人・高亨(こうこう)氏の注釈書。『商君書』の本文を分段し、「注」と「譯」(解釈)を分けて提示するなどの配慮がされているが、簡体字本であるところが惜しい。本書はむしろ巻頭巻末の附録が充実していて、そちらの方が有用である。特に巻頭の「商鞅與商君書略論」と「商君書作者考」は必読。巻末の「商君書新箋」は高氏の『諸子新箋』にも収録されている。
■賀凌虚『商君書今註今譯』 (今註今譯本)【賀】
これも近人の賀凌虚(がりょうきょ)氏の注釈書。台湾商務印書館の「古籍今註今譯」のシリーズの一冊として十年ほど前に出版された。最近の注釈書としては珍しく、陳啓天の『校釋』を底本にしている。但し、先述の徠民篇と刑約篇などのような体裁上の問題は全て通行本通りに改められているので、特別警戒する必要はない。巻末の「商君書的探析」は、商君書の成立・流伝・沿革・真偽問題について分析している。
■小柳司氣太『商子』 (國譯漢文大成本)【國】
國譯漢文大成のひとつとして刊行された最初の『商君書』の邦訳。原文、訓読文と簡単な注釈で構成されている。底本は嚴萬里校本。これを百子全書本(当解題では割愛)と程榮『漢魏叢書』の和刻本、更には兪?(ゆえつ)『諸子平議』や孫詒讓(そんいじょう)『札?』(さつい)などと校合している。
■清水潔『商子』 (中国古典新書本)【清】
明徳出版社の中国古典新書の一冊。このシリーズの多くの訳本と同様、この『商子』も抄訳である。底本は特に明記されていないが、恐らくは嚴校本であろう。各段の訳文の末尾に段落の要旨と訳者の短い感想が付け加えられているが、所々「あとがき」でも触れられている学園紛争の世相が反映されていて面白い。巻頭の解説は、今となっては内容が古くなってしまったが、初めて『商君書』を扱う者には程良いボリュームかもしれない。
■好並隆司『商君書研究』 (好並本)【好】
邦人の『商君書』の研究としては、量的に最もまとまった著作である。好並氏は漢代の諸制度の源流としての商君変法を見据え、その研究の基礎作業として本書に『商君書』の訳注を載せている。『商君書』の篇次と配列が異なるが、相互に関連の深い篇同士をまとめて論じているので、各篇の問題点がかえって見やすい。しかし考証に問題を含む箇所もあり、利用には注意を要する。
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